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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)719号 判決

裁判所書記官

安井博

本店所在地

東京都港区六本木三丁目一八番一二号

日本ダイレックス株式会社

(右代表者代表取締役若山政敏)

本籍

東京都品川区東品川一丁目一七〇番地

住居

同都新宿区高田馬場二丁目一四番二号 原田ビル八〇六号

会社役員

若山政敏

昭和一四年一月一七日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人日本ダイレックス株式会社を罰金一億三〇〇〇万円に、被告人若山政敏を懲役二年六月にそれぞれ処する。

二  被告人若山政敏に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人日本ダイレックス株式会社(以下、「被告会社」という。)は、東京都港区六本木三丁目一八番一二号に本店を置き、情報産業関連機器等の製造販売及び輸出入等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人若山政敏(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上し、たな卸商品の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年二月一日から同五五年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億〇、七七八万二、三九六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五五年三月三一日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五、七八九万五、八九四円でこれに対する法人税額が、二、〇七九万二、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五八年押第九二五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億六、〇七三万七、二〇〇円と右申告税額との差額一億三、九九四万四、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五五年二月一日から同五六年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三、三七〇万七、八六九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五六年三月三一日、前記麻布税務署において同税務署長に対し、その所得金額が一億〇、九二五万二、一六三円でこれに対する法人税額が三、九九二万九、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八、九七〇万七、八〇〇円と右申告税額との差額四、九七七万八、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第三  昭和五六年二月一日から同五七年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八億二、三九二万三、三〇五円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五七年三月三〇日、前記麻布税務署において同税務署長に対し、その所得金額が一億九、二二八万四、七七二円でこれに対する法人税額が七、四三六万六、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三億三、九六五万一、八〇〇円と右申告税額との差額二億六、五二八万五、二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  作田善宏(五通)、加藤稔(二通)、小林達也、石塚芳文、中村不二雄の検察官に対する各供述調書

一  東京法務局港出張所登記官作成の登記簿謄本

判示各事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある法人税確定申告書三通(昭和五八年押第九二五号の1、3、4)

判示各事実ことに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書の当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の期首商品棚卸調査書(以下、調査書はいずれも収税官吏の作成したものである。)

一  期末商品棚卸調査書

一  仕入調査書

一  販売員給与調査書

一  技術員給与調査書

一  事務員給与調査書

一  従業員賞与調査書

一  賞与引当金限度超過額調査書

一  賞与引当金限度超過額認容調査書

一  販売員旅費調査書

一  図書研究費調査書

一  設置工事費調査書

一  広告宣伝費調査書

一  事務用消耗品費調査書

一  通信費調査書

一  租税公課調査書

一  接待交際費調査書

一  交際費損金不算入額調査書

一  厚生費調査書

一  受取利息調査書

一  雑収入調査書

一  雑損失調査書

一  支払利息割引料調査書

一  価格変動準備金引当損調査書

一  価格変動準備金戻入益調査書

一  価格変動準備金超過額戻入調査書

一  価格変動準備繰入超過額調査書

一  債券償還差益調査書

一  雑益調査書

一  為替差益調査書

一  為替差損調査書

一  事業税認定損調査書

一  麻布税務署長作成の証明書

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一、第二の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(二)  被告人

判示第一、第二の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)、判示第三の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は、被告人が昭和四八年三月一六日電子機器、電子光学機器、情報産業関連機器等の製造販売及び輸出入、これら機器の各種システム設計及び関連サービス業務等を目的として設立した会社であり、実際の業務内容としては、主に米国からのデーター通信機、端末機、測定機器等を輸入しこれを国内の銀行、民間会社、大学、研究所などに販売したり設置した機器の保守管理等を行っているものであり、代表取締役である被告人の先見と手腕により急成長を遂げてきた会社であるが、本件は、判示のとおり、被告会社において、昭和五五年一月期、同五六年一月期、同五七年一月期の三事業年度にわたり合計四億五、〇〇〇万円余の法人税をほ脱したという事案であって、脱税額が巨額であるうえ、正規の税額に対するほ脱の割合は、それぞれ八七・〇六パーセント、五五・四九パーセント、七八・一一パーセントにも上っている。ところで、本件脱税に至る経緯をみると、被告会社は、昭和五一年九月ころから、取引先の接待費用等を捻出する目的で、架空人件費等を計上し少額の脱税をしていたが、被告会社は、もともと被告人らのわずかな資金で営業を始めたので当初銀行に対する信用がなく、被告会社名義でL/C(信用状)口座を開設できずにいたことから、銀行預金を増やし被告会社名義のL/C口座を開設する目的で架空仕入の計上等の方法による本格的な脱税を昭和五二年一月期から始めたものである。本件犯行の動機として、被告人は、昭和五三年ころには被告会社名義でL/C口座を開設できたものの、その枠が十分でなかったため、そのころ被告会社の最大の輸入先であったモデム(変復調装置)のメーカーであるI・C・C社から、L/Cを組めない被告会社と代理店契約を続けるべきかどうかが問題となっている等と言われ、十分な資金を蓄積しておくことの必要性を痛感し、更に昭和五四年ころからは本社ビルを持つための資金を確保しようとして本件のような多額の脱税を敢行した旨供述しており、これが本件犯行の主たる動機となったものと認められる。もとより被告会社のように、時代の先端産業として急速に取引量が増大する企業においては、L/C枠の拡大等のため、相当な資金面の手当てが必要となることは理解できないわけではないが、右のような事情によって本件のような大がかりな脱税行為を正当化することのできないことはいうまでもない。また本件ほ脱の態様をみると、被告人は被告会社の経理状況、売上高の推移等を常に掌握しており、各期毎の実際の所得額も把握したうえ、前年度の申告額や同業者の営業実績をにらみながら、税務当局から脱税の事実を怪しまれない程度の申告額(各期とも前期申告額の約二倍)を決定し、経理担当の作田に指示してこれに符合するように適宜棚卸商品の除外や架空仕入をおこす等の操作をさせたものであり、本件ほ脱額の相当額を占める架空仕入の計上については税務調査用に仕入商品にかかる輸入許可通知書の内容を改ざんしたコピーを作成して備えつけるなどしていたものであって、計画的かつ悪質な犯行である。更に犯行後の状況をみると、被告人は昭和五七年六月脱税の疑いを抱いた所轄税務署から被告会社の税務調査を実施する旨の通知を受けたが、作田と相談の結果、あらかじめ税務署に対し二億円程度の架空仕入の計上による脱税の事実を認めることにより本件脱税工作の全ぼうが発覚することを免れようと考え、公認会計士を通してその旨の連絡をして調査を受け、同五三年一月期から同五七年一月期までの五年度分につき税額にして合計二億九、六五八万円余(本件対象年度分としては約二億五、〇〇〇万円)の追加修正申告をしたのみでその余の納税義務を免れようとし、更に国税局の査察調査が開始されるや保守機器について特殊の取り扱いがなされていることに目をつけ、これを棚卸商品から除外されるように画策した事実が認められ、右のような被告人の本件発覚前後の態度も犯行を隠ぺいしようとするものとして非難されて然るべきものである。以上に述べたように本件は脱税額が巨額であり、ほ脱率もかなり高いこと、本件ほ脱の手段・方法、被告人らの税務調査及び査察の際における対応状況等を考えると、被告人らの納税意識は極めて稀薄というべきであって、被告会社の代表者であり、本件犯行において主導的にこれを推進した被告人の責任は重大であって、実刑をもって臨むことも考えられるところである。

しかしながら、他方において、本件ほ脱額の大部分を占める棚卸商品の除外の方法をみると、被告会社においては、技術部が決算期毎に実地棚卸を行い、概ね正確な棚卸表が作成されていたところ、被告人は、これとは別に、経理担当の作田をして一定額に達する商品をつまみ計上した集計表を作成させ、これに基づき法人税の申告を行っていたもので比較的単純なものであり、前記の架空仕入等の手段・方法も含め、いずれも被告会社の内部における経理操作等によって敢行されたものであって、取引先の関係者と通謀し、関係会社を巻き込むなどして強行されたというような悪質な事犯ではないこと、本件のほ脱結果は巨額であるとはいえ、被告会社は各期とも前期の約二倍にのぼる所得額を申告しており、ほ脱割合は次第に減少する傾向にあったこと、被告人は、被告会社の業務内容がいわゆるベンチアー・ビジネスとして企業の先行きに不安があり、同業他社の競争も格段と激しいものがあったことから、前記のとおり、設立後間もない被告会社のために資金を蓄積して会社の基礎を確保し、銀行及び取引先等の信用を得る目的で本件脱税を行ったものであって、被告人が自己の私利私欲を充すため本件脱税を敢行したものでないこと等が認められ、これらの事情は被告人の刑事責任を考えるうえである程度配慮されて然るべきである。また、被告人は前記のとおり国税局の査察の段階において保守機器の取り扱いについて画策し争っていたものの、検察官による取調べにおいては非を悟って犯行をすべて認め、当公判廷においても犯罪事実を認めたうえ再び犯行を繰り返さないことを確約しているなど反省の態度が顕著に認められること、被告会社において本件各事業年度につき修正申告をし、国税、地方税を含め納税を完了していること、被告会社では顧問税理士を正式に採用し、会社内部においても経理内容をチエックし合うなどの態勢をとり、経理について改善の跡が認められること、被告会社及び被告人には前科、前歴が全くないこと、その他被告会社の販売する情報関連機器及び保守管理業務が、わが国の企業や公共機関において広く受け入れられており、これら企業等において被告会社の営業の継続を必要としていること、被告人は被告会社の単なる経営者ではなく、その技術面においても必要不可欠な存在であること、被告人の家庭の状況等被告会社及び被告人にとって有利な事情が認められるので、これらの情状をも総合勘案したうえ主文のとおり量刑し、被告人に対しては特に刑の執行を猶予することとした(求刑被告会社につき罰金一億五、〇〇〇万円、被告人につき懲役二年六月)。

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 五十嵐紀男

弁護人 磯畑岩雄

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正損益計算書

日本ダイレックス株式会社

自 昭和54年2月1日

至 昭和55年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

日本ダイレックス株式会社

自 昭和55年2月1日

至 昭和56年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

修正損益計算書

日本ダイレックス株式会社

自 昭和56年2月1日

至 昭和57年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表(四)

税額計算書

日本ダイレックス株式会社

(1)

自 昭和54年2月1日

至 昭和55年1月31日

〈省略〉

(注) 申告額欄の金額は正当に計算した結果である。

(2)

自 昭和55年2月1日

至 昭和56年1月31日

〈省略〉

(3)

自 昭和56年2月1日

至 昭和57年1月31日

〈省略〉

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